12月のある日、年末に向けての仕事が立て込んでいた為、ようやくその
日は二週間ぶりの休みの朝を迎えられた。午前11時、休みの朝として
惰眠を貪るには宿命的な時間。僕はようやくベッドから起き街に出た。
陽はまだ上りきっていない、失われてない一日・・・。近くのバーガーショップで極めて
遅めの朝食をとった僕は、ポテトをコーラで流し込みながらバーガーを齧った。
店のガラス越しに見える街の風景は、通りを行き交う人々がまるでせっせと冬支度を
する堅実なリスに見えた。勿論、僕は不誠実で計画性のかけらも無い愚かな
‘夏の日のキリギリス’といったところだが・・・
12月、都会が最も‘街’らしく見える季節。久々の休みの割には、辛うじて思い出した
‘やること’は友人に毎年贈っているクリスマスカードを買いに行くことだけだった。
バーガーショップを出た僕は、行きつけのポストカード屋に向かった。アーケード街に
あるその店は、売れない画廊が客寄せで‘ポストカードも置いてます’といった感じの
店だが、なかなかいい感じで僕は気に入ってよく通っていた。季節がらクリスマス系の
カードが多く適当に物色していると、しばらくして品の良さそうな初老の女性が入って
きた。その女性はいかにも‘ポストカードを選ぶのは初めてです’オーラを出しながら
そわそわした面持ちでカードコーナーをうろうろしていた。しばらくすると並べられた
カードを見ながら、だんだん僕のほうに寄ってきてポツリと「どんなのがいいのかしら・・・」
と聞こえるようにつぶやいた。なんでも、若い人に初めてのクリスマスカードを贈る
のだとか。僕は思わず「こんなのはいかがですか?」と自分が手にしていたカードを
見せた。本当に思わず・・・するとその初老の女性は「あら、いいわねー。やっぱり若い
人に訊いて良かったわ。」と言うと、同じものを手に取りレジへと向かった。
会計を終えて再び僕のところに来て「ありがとう。御蔭で素敵なカードが買えました。」
と言い、去り際に「良いクリスマスを・・・」と添えて店を出て行った。
「良いクリスマスを・・・」自分に向けられた言葉としては初めてだった。しかも何の面識
も無い人から本当に偶然に・・・
店を出て家に帰る途中のすれ違う人々、店頭で流れる聴き慣れたクリスマスソング、
街全体が出すうねりの様な体で感じる音・・・それら全てが等しく、そして幻想とはいえ
愛しくすら感じた。そんな気持ちになったのは本当に久しぶりだった。
ダッフルコートのポケットに手を突っ込んだまま、ふっと見上げた冬空は何処までも
高く、そして澄んでいた。
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